福島県郡山市で親の死亡を隠蔽した年金不正受給の詐欺罪
親が死亡したにも関わらず、年金受給停止などの公的手続きを取らず、不正に年金などの社会福祉的な利益を得る詐欺罪の刑事事件の概要とその刑事責任について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事件例】
福島県郡山市在住の無職Aさん(55歳)は、88歳の母親が亡くなったにも関わらず、自分が母の年金をあてに生活して来たことから年金の受給を停止させたくないと思い、母の遺体の埋葬手続きだけを行ったにも関わらず、母の死亡によって行うべき公的手続きをあえて行わず放置しておりました。
その後も、日本年金機構から送られてくる書類に対して、Aさんはあたかも母が生きているような記載をして年金を受給し続けましたが、記載内容を不審に思った福島県年金事務所の職員が内容を調べ、年金の不正受給の疑いが極めて高いと判断して詐欺罪の刑事告訴を行い、福島県警郡山北警察署はAさんを詐欺罪の疑いで逮捕しました。
警察の調べに対し、Aさんは「身に覚えがない」と事実を否認していますが、裁判所はAさんに対して10日間の勾留を決定しました。
(フィクションです。)
上記刑事事件例は、2015年5月7日、約50年前に死亡した両親の年金を不正受給していたとして、岐阜県警が同県恵那市に住む無職女性(当時86歳)を詐欺罪などの疑いで逮捕した事案をモデルにしています。
岐阜県警恵那警察署によると、被疑者は2013年2月ごろと2014年2月ごろ、日本年金機構から父親宛てに送られてきた現況確認の書類に、1965年と68年にいずれも60代で亡くなった両親が生きているように虚偽の記載をして返信し、2013年4月から2014年12月、計11回にわたり、年金計約262万円をだまし取った疑いがあります。
警察によると、被疑者は1968年8月から総額約5100万円を不正受給していた疑いがあるものの、詐欺罪の公訴時効は7年で、立件して刑事責任を追及する期間は岐阜地方検察庁と協議するとのことです。
被疑者の亡くなった両親が、もし生きていれば父は112歳、母は110歳となるため、不審に思った多治見年金事務所が今年3月、岐阜県警に詐欺の刑事告発していた模様です。
警察の調べに対し、被疑者は「身に覚えがない」と容疑を否認しているとのことです。
【少子高齢化と不正受給の刑事事件】
厚生労働省の人口動態統計によると、平成30年において死亡した推計数は約137万人であり、平成29年に比べて約3万人増加しています。
日本は未曽有の少子高齢化という人口モデルに突入しつつあり、今後も高齢者の死亡数は増加の一途をたどり、それに伴って高齢者の介護や死後の扱いについて刑事事件化するケースも増えることが予想されます。
また、人口動態において60代以上の高齢者に比べて労働人口の中心を担う若者層の人口総数が少ないため、年金負担の段階的増加が検討されつつある現在、今後、年金支給額が減額される可能性や、70歳あるいはそれ以上の年齢に年金支給開始年齢が引き上げられる可能性も言われています。
このような中、経済的に困窮した高齢者の方がより一層増加するであろうと指摘されている中、配偶者等が死亡したにも関わらず、あたかも生存しているかのように装って年金を不正受給しようとする者が今後増加することも懸念されます。
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、年金制度のように国民の信頼によって成立している福祉制度を悪用して詐欺行為を行う場合は、態様が悪質と考えられており、実務上、被疑者の認否に関わらず、逮捕や勾留による身体拘束へ踏み切ることが多いように見受けられます。
また、詐欺行為を否認している場合はほぼ確実に、たとえ詐欺行為を認めている場合であっても、高い確率で起訴され、公開の刑事裁判になることが予想されるため、捜査段階で不合理な弁解や一部否認と受け取られかねない供述をしてしまい、その供述が調書として残っている場合には、今後の刑事裁判において、被告人の供述の証明力に不利な問題が生じる可能性も懸念されるため、このような事案は、刑事事件を専門とする刑事事件弁護士にお任せしていただくことを強くお勧め致します。
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