1 条文・概要
⑴ 自動車運転死傷行為処罰法のまとめ
罪名 | 結果 | 刑罰・法定刑 | |
無免許運転以外の場合 | 無免許運転の場合(6条) | ||
危険運転致死傷罪 (2条) |
死亡 | 1年以上の有期懲役 (最高20年) |
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負傷 | 15年以下の懲役 |
6月以上の有期懲役(1項) |
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準危険運転致死傷罪 (3条) アルコール・薬物・病気 |
死亡 | 15年以下の懲役 | 6月以上の有期懲役 (最高20年) |
負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(2項) | |
発覚免脱罪 (4条) |
死亡・負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(3項) |
過失運転死傷罪 (5条) |
死亡・負傷 |
7年以下の懲役,禁錮 |
10年以下の懲役(4項) |
⑵ 概要
人身事故については,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)により処罰されます。
以前,交通事故を起こした場合に適用された犯罪は業務上過失致死罪(5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)のみでした。
しかし,酒酔い運転や無免許運転,などで事故を起こして相手を死亡させたにもかかわらず,わずかの数年の刑期で済んでしまうことに疑問と怒りが生じ,厳罰化が要請されました。その結果,刑法典の中で危険運転致死傷罪が設けられました。
もっとも,危険運転致死傷罪を適用できるケースが限定されており,処罰すべきである事案にもかかわらず,同規定が適用されないため軽い罪で済んだ事例も散見されました。そこで,処罰の間隙を埋めるとともに妥当な処罰を行うべく,「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が施行されました。
具体的には,
- これまで刑法211条2項に定められていた自動車運転過失致死傷罪と,刑法208条の2に定められていた危険運転致死傷罪を刑法から削除して自動車運転死傷行為処罰法に組み込む,
- 従来の危険運転致死傷罪の対象類型に,「通行禁止道路の高速走行」と,「アルコール・薬物及び政令で定める病気の影響により,走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転」を追加,
- アルコールや薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で,さらにアルコールや薬物を摂取したり,事故現場を離れて濃度を減少させたりなど,捜査を免れる目的で免脱行動をとった場合に対する罰則を新設,
- 危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪を犯した者が,そのときに無免許運転だった場合には免許ある場合に比べ刑罰を加重すること,
が規定されました。
なお,従来人身事故により業務上過失致傷罪で処罰されていたものは,「過失運転致死傷」(自動車運転死傷行為処罰法5条)として処罰されます。
⑶ 危険運転致死傷罪とは
前述のように,従前刑法に規定されていた危険運転致死傷罪は適用するためのハードルが高く,悪質な運転者であっても,適用することができないケースが多かったため,同罪は自動車運転死傷行為処罰法に組み込まれ,軽度の飲酒でも危険運転致死傷罪が適用できることになりました。また,飲酒の発覚を免れるために,事故後さらに飲酒してごまかそうとした場合や,逃げて血中のアルコール濃度を減少させたような場合も処罰されることになりました。また,無免許の場合は,刑が加重される規定も加わりました。
下記の類例があります。
- 酩酊運転(2条1号)
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。道路交通法上の酒酔い運転罪よりも要件が厳しい一方で刑罰が重くなっています。
なお,飲酒だけでなく,薬物(危険ドラッグ)により正常な運転が困難な場合も該当します。 - 制御困難運転(2条2号)
進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
速度違反のように,何キロオーバーということが数値で決まっているわけではなく,道路状況や事故状況に応じて判断されます。 - 未熟運転(2条3号)
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ,よって,人を死傷させる罪です。
「進行を制御する技能を有しない」とは,基本的な自動車操作の技能を有しないことをいいます。具体例としては,無免許であることが挙げられますが,長年ペーパードライバーであったような場合も含まれると解されます。 - 妨害運転致死傷(2条4・5・6号)
人または車の通行を妨害する目的で,通行中の人または車に著しく接近し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。車の通行を妨害する目的で,重大な交通の危険が生る速度で走行中の車の前方で停止する他著しく接近することとなる方法で自動車を運転する場合や,高速自動車国道において,自動車の通行を妨害する目的で,走行中の自動車の前方で停止する他著しく接近することとなる方法で自動車を運転して走行中の自動車に停止や徐行をさせる場合も同様です。
急な割り込み,幅寄せ,あおり,対向車線へのはみだし行為などにより,他車のハンドル操作を誤らせて死傷事故を起こしたような場合をいいます。
「妨害する目的」とは,動機であり,相手方に衝突を避けるための急な回避措置をとらせるなど,相手方の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいいます。このことから,なんらかの事情でやむなく割り込むような場合には,相手方の通行を妨害することになると認識していても本罪は成立しません。 - 信号無視運転致死傷(2条7号)
赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し,よって,人を死傷させる罪です。
「殊更に無視」とは,赤信号であることを認識している場合のみでなく,およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。
例えば,赤色信号であることを見過ごした場合は「殊更に無視」にはあたらないこととなります。 - 通行禁止道路運転(2条8号)
新法により通行禁止道路運転が追加されました。他の時間は通行禁止になっていなくても,通学の時間などに限って通行禁止になっている道路,というのが学校の近くなどではありますので注意が必要です - 準危険運転致死傷罪(3条1項)
新法により追加されました。
アルコールや薬物,あるいは一定の病気による影響により,正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で,自動車を運転し,よって,そのアルコール又は薬物,あるいはその病気の影響により,正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合に成立します。人を負傷させた場合には,12年以下の懲役が,人を死亡させた場合には,15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷行為処罰法3条)。
「正常な運転が困難な状態」までいかなくとも,「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で「正常な運転が困難な状態に陥り」人を死傷させた場合に成立します。危険運転致死傷罪の適用のハードルが高かったことから,飲酒や薬物による影響が比較的軽度であっても同罪が成立しうることになりました。 - アルコール等影響発覚免脱罪
アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こし,人を死傷させた場合に,運転当時のアルコール又は薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で,さらにアルコールを摂取,あるいは,その場から離れアルコール又は薬物の濃度を減少させること等をした場合に成立します。
例えば,飲酒運転をして,人身事故・死亡事故を起こし,その場から逃走した場合や,水を大量に摂取してアルコール濃度を減少させた場合などが,発覚免脱罪に当たる行為です。
これは,飲酒運転の逃げ得を許さないため,通常の場合に比べ,重い罰則を科しています。
なお,この犯罪類型を新設したことにより,その場から逃走した場合には,アルコール等影響発覚免脱罪(最高で懲役12年)とひき逃げ(最高で懲役10年)が成立し,併合罪(※)により最高刑は懲役18年になります。
※併合罪
確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪といい,併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁固に処するときは,その最も重い罪について定めた系の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし,それぞれの罪について定めた系の長期の合計を超えることはできない。 - 過失運転致死傷(5条)
自動車の運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(自動車運転死傷行為処罰法5条)。
前方不注視やスピード違反などの過失により,自動車事故で人を負傷させたり,死亡させたりする場合に成立します。 - 無免許による加重(6条)
2 弁護活動の例
⑴ 人身事故・死亡事故に至る経緯・事件の全体像の把握
人身事故・死亡事故で警察に検挙・逮捕され刑事事件となった場合,初犯の過失運転致死傷罪で,かつ被害が軽微であったり,過失の態様が軽微であったりする場合は,罰金で済むことも考えられます。しかし,危険運転致死傷罪や発覚免脱罪は,刑事事件の中でも重い法定刑が規定されています。そのため,危険運転致死傷罪や発覚免脱罪の場合,起訴されると正式裁判になってしまいます。裁判所での審理の結果,懲役の実刑判決が言い渡されることになれば,刑務所に入ることとなります。
弁護士は,人身事故・死亡事故に至った経緯や動機,当時の状況,その他の事情を精査し全体像を把握した上,適切な弁護方針をご案内いたします。逮捕直後から,人身事故・死亡事故に強い弁護士が弁護を引き受けることで,一貫した弁護活動を行うことができます。
⑵ 不起訴処分や刑の減軽・執行猶予の獲得のための活動
人身事故・死亡事故は,被害者がいる犯罪であるため示談解決がポイントとなります。
示談は契約ですので,被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが,被疑者が捜査機関に被害者の連絡先を聴いても教えてもらえないのが通常です。
また,仮に連絡先を知っていたとしても,相手方の被害感情が強い場合,直接被疑者が被害者と交渉を行うのは非常に困難であるといえます。
一方,弁護士を通じれば,検察官より被害者の連絡先を教えていただける場合が多々あります。ですので,弁護士に依頼することにより被害者とコンタクトをとりやすくなります。
また,弁護士が間に入れば,冷静な交渉により妥当な金額での示談解決が図りやすくなります。
⑶ 身柄解放活動
人身事故・死亡事故で警察に逮捕・勾留された場合,容疑者・被告人が反省しており逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを客観的な証拠に基づいて説得的に主張していきます。早期に釈放されることで,会社や学校を長期間休まずに済み,その後の社会復帰がスムーズに行いやすくすることができます。
⑷ 環境調整
重大事故を起こした場合や交通事故の前科がある場合は,運転免許を返納した上で車を売却する等の検討も視野に入ってきます。また,職場の近くに転居するなど車を使わなくても生活できるよう環境を調整していく必要があります。
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