1 概要・罰則
⑴ 交通反則通告制度について
交通反則通告制度とは、道路交通法違反の中でも、明白かつ定型的な違反行為である一時不停止、速度超過(一般道路:30キロ未満、高速自動車国道等:40キロ未満)等を「反則行為」とし、国に所定の反則金を納付することで事件が終結する制度です。
道交法違反事件はあまりに数が多く、それらすべてを刑事手続きで処理することは物理的に不可能に近いです。そこで、違反事件の中でも、軽微な違反については簡易・迅速に事件を処理すべく交通反則通告制度が導入されました。
反則金とは、交通反則通告制度に基づき課される過料のことで、道路交通法に違反した者が刑事手続を免れるかわりに納付します。通告に応じない場合は、刑事手続きに移行します。
この反則金を、一般に、罰金と呼称されたりもしますが、法律的には、罰金は刑事処分としてなされるものであり、反則金は法律的には罰金には当たりません。
なお、反則金を納めれば刑事処分ではないため前科が付きません。
ただし、交通反則金を未納のままでいると、刑事手続きに移行し、罰金として刑事処分されるおそれがありますのでご注意ください。
⑵ 交通反則通告制度で処理されない場合
まず、無免許運転は交通反則通告制度で処理されません。
また、スピード違反は一般道路で30キロ以上超過、高速自動車国道等で40キロ以上超過事案においては交通反則通告制度で処理されません。この場合には、刑罰による刑事責任に問われることとなります。赤切符が切られて罰金を支払ったという話がありますが、赤切符による罰金は、略式罰金という刑罰であり交通前科が付きます。
- 交通反則通告制度が適用されない事件
- スピード違反のうち超過速度が時速30km以上(高速道路では時速40㎞以上)
- 無免許運転・無資格運転
- 酒酔い運転・酒気帯び運転・過労運転等・麻薬等運転
- 人身事故
⑶ 無免許運転
無免許運転には、運転免許を取得していない場合だけでなく、運転免許停止中や運転免許取消後・失効後に運転した場合も含まれます。2013年の道路交通法改正により、無免許運転を助長する車両提供者・同乗者に対する罰則も新設されました。
無免許運転をした場合には、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(道路交通法第117条の2の2)に処せられます。
もっとも、初犯で事実を認めているような場合には、正式裁判によらず20万円から30万円程度の略式罰金で済むことも多くあります。
なお、違反回数や違反期間等によっては、正式裁判の手続きが行われ懲役刑に問われる場合もあります。さらに前科や前歴がありながら、無免許運転を繰り返しているような悪質性の高い事案では、執行猶予の付かない実刑判決を言い渡されるおそれもあります。
無免許運転をして人身事故を起こした場合の具体的な刑罰は下記表のとおりです。
罪名 | 結果 | 刑罰・法定刑 | |
無免許運転以外の場合 | 無免許運転の場合(6条) | ||
危険運転致死傷罪(2条) | 死亡 | 1年以上の有期懲役 (最高20年) |
|
負傷 | 15年以下の懲役 |
6月以上の有期懲役(1項) |
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準危険運転致死傷罪(3条) |
死亡 | 15年以下の懲役 | 6月以上の有期懲役 (最高20年) |
負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(2項) | |
発覚免脱罪(4条) | 死亡・負傷 | 12年以下の懲役 | 15年以下の懲役(3項) |
過失運転死傷罪(5条) | 死亡・負傷 |
7年以下の懲役、禁錮 |
10年以下の懲役(4項) |
なお、近時、「無免許運転をする恐れがある者に対して自動車やバイクを提供する行為」(車両提供罪)、「無免許の人に運転を要求若しくは依頼して同乗する行為」(要求・依頼同乗罪)が処罰の対象として新たに追加されました。
車両提供罪は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(道路交通法第117条の2の2第2号)、一方、要求・依頼同乗罪は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」(道路交通法第117条の3の2第1号)が科されます。
⑷ 法定速度違反(スピード違反)
道路標識等によりその最高速度が指定されている道路においてはその最高速度を、その他の道路では政令で定める最高速度をこえる速度で走行した場合には6か月以下の懲役又は10万円以下の罰金となります(道路交通法118条第1号、22条)。
スピード違反で検挙された場合、高速道路で時速40㎞以上、一般道路で時速30㎞以上の速度超過であれば、刑事罰の対象となります。この場合には、反則金制度は適用されず、刑事罰としての罰金か懲役判決が言い渡されることになります。
多くの場合は、略式手続による罰金処分となりますが、超過した速度が極めて高い場合や過去に多くの違反前科があるような場合には、正式裁判による懲役刑が言い渡される可能性もあります。
初犯の速度超過の場合は、検察庁・裁判所の実務上、超過速度によって罰金相場が定まっており、70キロ超過付近から、略式罰金ではなく、正式裁判のリスクが高まってきます。
2 弁護活動の例
⑴ 罰金・執行猶予のための活動
交通違反事件の事実を認めている場合は、できる限り罰金や執行猶予付き判決などの処分となるよう弁護活動を行うことになります。
(人身事故でない場合の)無免許運転・スピード違反事件は、被害者がいないため示談はありませんが、例えば、「反省文を書いていただき内省を深めていただく」「自動車を売却していただく」「家族や職場の上司に情状証人になっていただくよう手配」など、様々な面でサポートをして有利な処分に向けて尽力します。
特に、再犯防止のための環境の構築が、量刑上重要になってきます。
⑵ 無罪主張
スピード違反の容疑で検挙されてしまったが、警察官の速度測定に疑義がある、又は速度超過の覚えがないというような場合は、警察官の検挙の仕方に問題があったことや、速度測定器の誤作動や不備、操作不良があった可能性があることを具体的な根拠とともに示す必要があります。
捜査機関による証拠が不十分である場合は、不起訴処分を得られる場合があるとともに、正式裁判で事実を争うことにより無罪判決の獲得を目指します。
⑶ 身柄解放活動
一般に、無免許運転やスピード違反などの交通事犯では、在宅のまま取り調べなどが進み、略式手続きによって罰金処分が下されることになりますので、身柄を拘束されるような場合は、少ないといえます。しかし、違反の態様が悪質であったり、違反の程度が著しいような場合、また、出頭要請に従わないなど捜査に非協力的であったりした場合には、逮捕や勾留がなされる可能性があります。
その場合でも、被疑者が反省しており、逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを客観的な証拠に基づいて説得的に主張していきます。また、早期に釈放されることで、会社や学校を長期間休まずに済み、その後の社会復帰がスムーズに行いやすくすることができます。
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