ひき逃げ・当て逃げ

1 概要・罰則

⑴ 概要

  • ひき逃げ
    轢き逃げや当て逃げという言葉は,法律上の言葉ではありません。
    ひき逃げとは,自動車やバイクの運転中に人の死傷を伴う交通事故があった場合,すぐに自動車やバイクを停止させ,負傷者の救護や道路の危険を防止したりしなければならないのに,これらをせずに現場から離れることによって成立する犯罪です。
    道路交通法第72条の救護義務違反(交通事故を起こした際に負傷者を救護しないで逃走する行為)がこれにあたります。
    また,道路交通法とは別に交通事故を起こして相手に傷害・死亡結果を発生させたという点で「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」により処罰されます。
  • 当て逃げ
    一方,あて逃げとは,自動車などで人以外の物に衝突してそのまま逃げることをいいます。
    当て逃げも法律上の言葉ではありませんが,物損事故を起こした場合に危険防止措置義務(道路における危険を防止する等必要な措置を行う義務)を怠って事故現場から離れると,道路交通法違反の犯罪行為となります。
    交通事故について自分の無過失が明らかな場合でも,危険防止措置を取らないことは許されず,当て逃げで処罰されます。

 

⑵ 罰則

    最高刑 根拠となる法律
ひき逃げ 懲役15年 過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)と救護義務違反(道路交通法117条2項,72条1項前段)の併合罪(※)
危険運転致死傷罪 負傷事故 懲役22年6月 危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条)と救護義務違反(道路交通法117条2項,72条1項前段)の併合罪(※)
死亡事故 懲役30年
準危険運転致死傷罪 負傷事故 懲役18年 準危険運転致死傷罪
(自動車運転死傷行為処罰法3条)と救護義務違反(道路交通法117条2項,72条1項前段)の併合罪(※)
死亡事故 懲役22年6月
当て逃げ 1年以下の懲役

道路交通法117条2項,72条1項前段

(※)併合罪
確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪といい,併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁固に処するときは,その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし,それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

 

2 弁護活動の例

⑴ 示談

ひき逃げ事件(特に過失運転致傷について)は,被害者がいる犯罪であるため示談解決がポイントとなります。

示談は契約ですので,被疑者と被害者が合意することにより作ることになりますが,被疑者が捜査機関に被害者の連絡先を聴いても教えてもらえないのが通常です。

なお,任意保険に加入していて,更に弁護士特約付きであれば,特約弁護士による示談もありえます。

ただし,一般的に,弁護士特約による示談は,民事的な解決に主眼が置かれており,加害者を許すといった内容の宥恕(ゆうじょ)条項までつけてもらえるケースは多くありません。

更に,通常,保険会社による解決は,被害者の方の症状固定によって,損害額の確定がなされることによってなされますが,症状固定までに時間がかかると,刑事手続きに間に合わないおそれがあります。

場合によっては,刑事処分に向けて,特別な形で,早期に示談を締結させることが必要になります。

 

⑵身柄解放活動

人身事故・死亡事故で警察に逮捕・勾留された場合,容疑者・被告人が反省しており逃亡したり証拠隠滅したりするおそれがないことを客観的な証拠に基づいて説得的に主張していきます。早期に釈放されることで,会社や学校を長期間休まずに済み,その後の社会復帰がスムーズに行いやすくすることができます。

 

⑶環境調整

重大事故を起こした場合や交通事故の前科がある場合は,運転免許を返納した上で車を売却する等の検討も視野に入ってきます。また,職場の近くに転居するなど車を使わなくても生活できるよう環境を調整していく必要があります。

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