福島県福島市のアパートに住むAさんは、隣室のベランダから女性用の下着を盗んだのをきっかけに、女性の家に侵入して下着を盗みたいと思うようになりました。
そこで、窓に鍵が掛かっていない家を探し、窓を開けて侵入したうえでタンスから女性用の下着を盗みました。
そうした犯行を2件行ったところ、被害に遭った女性のひとりが警察に通報したことで、Aさんは住居侵入罪および窃盗罪の疑いで福島北警察署に逮捕されました。
接見に来た弁護士は、起訴される可能性があると伝えたうえで、被害者と迅速に示談を行うことにしました。
(フィクションです)
【窃盗罪について】
窃盗罪は、ご存知のとおり他人の物を盗んだ場合に成立する可能性のある罪です。
万引きや空き巣というかたちで非常によく見られる犯罪の一つであり、刑法犯(日本において発生する、刑法に規定されている犯罪)の約7割を占めているというデータがあります。
窃盗罪が成立する要件は、正確に言えば①他人の財物を②窃取し、③その際に不法領得の意思があったこと、と説明できます。
今回は、上記②③に着目しながら、上記事例において窃盗罪が成立する可能性が高いことを確認します。
【要件②について】
「窃取」とは、占有者の意思に反して、財物に対する占有を自己または第三者に移転させることを指します。
簡単に言えば、他人の支配下にあるものを自己の支配下に移す、ということです。
上記①とも関連しますが、他人が持っている自分の物を勝手に取り戻した際にも窃盗罪が成立する可能性があるのです。
また、どの時点で「窃取」が完了した、すなわち財物の支配が移ったと言えるかについては、財物の性質や周囲の状況などから客観的に判断される事柄です。
上記事例のように空き巣で下着を窃取した場合は、その場で下着を懐に入れた時点で「窃取」は完了すると考えられます。
なぜなら、下着程度のサイズの物を誰にも気づかれずに懐に入れれば、その時点で下着の支配が持ち主から自身に至ったと言えるからです。
このように「窃取」が完了したかどうかという点は、窃盗未遂罪として刑を減軽する余地があるかどうかに関わるため重要です。
【要件③について】
不法領得の意思とは、(a)権利者を排除し、なおかつ(b)財物をその経済的用法に従い利用・処分する意思と定義されています。
一見するだけでは意味が理解しがたいものかと思いますが、こうした定義がなされているのには理由があります。
まず、(a)については、物を一時的に借りる行為を窃盗罪とは区別し、借用につき少なくとも刑事責任は問わないということを明確にするためです。
他人の物を一時的に借りる場合、通常その物を自身の支配下に置く意思はないと考えられることから、こうした区別がなされています。
ただし、本当に一時的に借りただけと言えるかどうかは、実際にどう使用されたかという観点から判断されます。
ですので、自分の中では少し借りたという程度でも、客観的に見れば窃盗罪に当たるということは十分ありえます。
次に、(b)については、窃盗罪と器物損壊罪との区別をつけるためです。
器物損壊罪は、他人の物を壊したり隠したりすることで、物の利用を妨げた場合に成立する可能性のある罪です。
これに対し、窃盗罪は、物の利用を妨げるのみならず自らその物を利用するという罪です。
この観点から、刑事事件においては、一般的に器物損壊罪より窃盗罪が重いと考えられているのです。
(b)に含まれる「経済的用法」というキーワードは、こうした区別のために存在するというわけです。
ただ、この「経済的用法」という言葉は裁判例などで本来の意味より広く捉えられる傾向にあります。
上記事例のAさんも、性的興奮を覚えるという理由から下着を盗んだと考えられ、たとえば下着を売るなどして経済的利益を得ようとは考えていないはずです。
ですが、下着に性的興奮という価値を見出していた以上、やはりAさんには不法領得の意思が認められるでしょう。
以上から、Aさんには窃盗罪が成立すると考えられます。
次回は、上記事例のようなケースにおける示談について説明します。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件に詳しい弁護士が、豊富な知識と経験を武器に弁護活動を行います。
ご家族などが窃盗罪の疑いで逮捕されたら、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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