器物損壊罪で取調べ

福島県石川郡にあるアパートに住むAさんは、最近近所でたびたび耳にする車のふかしの音にすっかり嫌気がさしていました。
そこで、車の所有者に何か嫌がらせをしようと考え、問題の車(Vさん所有)のボディーに10円玉で多数のひっかき傷をつけました。
その様子がアパートに設置されたカメラに写っていたことから、Aさんは器物損壊罪の疑いで石川警察署にて取調べを受けることになりました。
納得がいかないAさんは、本当に器物損壊罪が成立するのか、自分の行為は正当防衛ではないのかを弁護士に確認しました。
(フィクションです)

【器物損壊罪について】

器物損壊罪は、他人の物を「損壊」した場合に成立する可能性のある罪です。
ただし、他人の物のうち建造物等(建造物または艦船)と特定の文書の「損壊」については、それぞれ建造物等損壊罪と文書等毀棄罪により罰せられます。
そのため、それ以外の他人の物を「損壊」した場合に器物損壊罪が成立するということになります。

器物損壊罪における「損壊」とは、物の効用を害する一切の行為を指すと考えられています。
通常、「損壊」と聞くと「壊してその物が使えなくなる」という程度を想像するかもしれませんが、その程度に至らずとも器物損壊罪に当たる可能性があります。
上記事例では、AさんがVさんの車のボディーに多数のひっかき傷をつけています。
このような傷があったからといって、車が走行できなくなるわけでもなければ、強度が下がり運転者に危険が及ぶわけでもありません。
ですが、先述のとおり「損壊」の意味が広く捉えられていることから、この程度の傷でも「損壊」と見て器物損壊罪が成立する可能性があるのです。
とはいえ、結果の大小は刑事事件の処分に少なからず影響を及ぼすことから、その範囲で有利に考慮されることはあるでしょう。
ちなみに、裁判例では、落書きなどにより他人の物を汚損した場合にも器物損壊罪の成立が認められています。

器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料(1000円以上1万円以下の金銭の納付)のいずれかです。
事件の内容や前科の有無などによりこの範囲で上下することになりますが、初犯かつ被害が比較的軽微であれば、悪くとも罰金刑で収まる可能性が高いでしょう。

【正当防衛とは言えない?】

上記事例のAさんが器物損壊罪に当たる行為に及んだ動機は、Vさんによる車の空ふかしがうるさかったからだと考えられます。
この場合に正当防衛ではないかと考えられる方がいらっしゃるかもしれませんが、結論から言うとその主張は難しいです。

まず、正当防衛の成立要件を確認します。

刑法36条
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 (略)

簡単に言うと、①突然降りかかった不当な行為から②自己や他人を保護するために③必要最低限度の行為に及んだ場合に限り、正当防衛として適法となります。
上記事例において①から③を満たすか見ていきます。
まず、Aさんが行為に及んだ時点において、Vさんによる不当な行為が存在あるいは接近していたわけではありません。
そのため、上記①は満たさないと考えられます。
②については微妙なところですが、防衛というより嫌がらせという目的が全面に出た結果であれば、やはり満たさない可能性が高いと言えます。
最後の③に関しては、他に騒音を回避するための方策(たとえばVさんとの話し合いや警察への相談)が容易に考えられるため、必要な行為とは言えず満たさないでしょう。

今回は正当防衛がおよそ認められない事例を題材にしましたが、実際に正当防衛の主張を検討すべきケースというのは、時に法律家の間でさえ激しく争われるほど複雑です。
もし正当防衛を主張したいということがあれば、ぜひ弁護士に事件を依頼してください。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士が、正当防衛の主張の当否を綿密に検討いたします。
器物損壊罪を疑われたら、刑事事件・少年事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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